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「そう言わず、ーつだけ」 指を一本、立てた義兄さんに 「ーつしかねーっての。食い意地を張りすぎだ」 苦笑する九鬼さんの顔が優しい。お茶は・・・・・・どうするのかな。九鬼さんの前に湯飲みを置いて、当然のような顔で湯飲みへ手を伸ばす義兄さんから、目を逸らしたとき 「ほら」 九鬼さんが寿司折を義兄さんに差し出すのが見えた。結局、帆立も義兄さんにあげるんだ。何が不満とか、口にだして言えるほど胸のざわざわは、はっきりしたものじゃない。ただ悲しくて、泣きたい気分になる胸のざわざわは 「え、くれるのか」 義兄さんの手は帆立へ動く。自然な流れで、湯飲みを手にした九鬼さんが目尻にシワを寄せた瞬間 「美味い」 ぼくの胸に甘い痛みを残して消えた 九鬼さんがマグロを醤油につけ、箸で口に運ぶ。ぼくのは醤油がポタリ、ポタリと垂れているのに九鬼さんのは垂れない。難しいんだよな、絶妙な浸け加減が。首を傾げながら箸で口に卵を運び 「ん、」 恥ずかしい、醤油で口を汚すとか、どこの幼児だ 「慌てるな、喉に詰まらせるぞ」 唇を汚さない九鬼さんが笑って、醤油をつけたぼくの唇を指で拭う。ヤバい、なんか変、九鬼さんの温もりがぞわぞわと唇から肌を伝わり、広がっていく
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