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微かに身じろぎすると、九鬼さんの全身は小波が立つように震えた。腰に置かれた手は数ミリ、お尻へとズレたけど戻ってくる。目を閉じた九鬼さんの顔は滝行に耐える修行僧のようで ―――そんなに義兄さんがいいですか 胸がズキズキと痛む ぼくはズルいのだろう。義兄さんに頼まれた遊女を演じる今なら、九鬼さんはぼくを拒絶しない。重なる胸の鼓動が速い、気付いてはいけない、目を逸らすのは難しい。網膜の裏で雪が吹き荒れる、溶けて、消えていくだけの想いを口に出すのは止めておこう。今だけ、今しか許されない触れ合いならぼくは、九鬼さんの味が知りたい。さすがに、九鬼さんの股間に手を伸ばす勇気はないから 「・・・・・・っ」 息を詰める九鬼さんの、喉の窪みに舌を這わせた。くっきりした鎖骨と、主張の強い喉仏と、筋の浮く首筋と、触れてはならない唇の、下。ぷつぷつと、浮いた汗を丁寧に舌ですくっていく。濡れた肌は蛍光灯の明かりを弾いて、九鬼さんの呼吸に合わせ、明るくなったり、淡くなったり、色の加減を変化させる 「塩っぽい中に、苦味があるのは九鬼さんが、お酒を飲まれたからでしょうか」 九鬼さんが目を開く。いつもは鋭く炯る瞳が濡れていて色っぽい、ドキン、誤魔化しようのないほど大きく跳ねたぼくの鼓動を受け止める、九鬼さんの指が伸びてきて 「母乳の味も食事で変わると言うしな、そうかもしれない」 ぼくの頬を掠め、頭をよしよしと撫でた
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