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「冷静でいられなかった」
どうしてぼく、月明かりも届かないこんな木陰に来てしまったのだろう。九鬼さんの顔が見たくて暗闇の中、じっと目を凝らす
「相手が女ならいい、未来がある。だが、男は駄目だ」
膨らんだ期待がしゅるしゅると萎む。バカみたい、九鬼さんもぼくのこと、なんて、一瞬でも浮かれたりして。やだな、鼻水は垂れそうだし、また頬を濡らしてしまいそう
「―――俺が貰う。いいよな、テル」
あ、九鬼さんの話を聞いてなかった。でも
「貰うって・・・・・・なにを?」
「テルを」
「誰が?」
「俺が」
夢を見ているのだろうか、都合のいい夢を。目の前にいる九鬼さんは実は妖怪か、思って、暗闇に炯る目の下に触れると温かい。ふいに、九鬼さんの目が微笑した。胸が怖いくらいドキドキする、ぼくに顔を寄せた九鬼さんの眼に真剣な光が宿る。しゃがんだままぼくは背を伸ばし
「稚児趣味な変態ジジイと罵倒されてもいい。いつか、女性と恋をするその日まで、俺と付き合って下さい」
九鬼さんの胸に頭突きした
気が急いた、頭を下げて承諾したかったのにどこまでも、格好悪い自分が嫌になる。余計な一言があった気がするけど、気にしない。大丈夫か、笑い混じりにぼくの頭を撫でる、憧れていた人を見上げて
「・・・・・・よろしく お願いします」
震える声で返事をした
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