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「それは誘ってるのかな?」 「さあ、どうかしら」 ゆり姉の肩にかかる髪が流れて、義兄さんの顔を隠し、低めと高めの甘い吐息が混じり合う ――恥ずかしい どうしてぼくの顔が赤らみ、腿から足首へかけてビリビリと電気が走るのか。恥じらうべきは本人たちなのに 「鞄を部屋へ片付けてきます」 ドキドキする胸に鞄を抱き、庭のフジの紫の小さな花が風に揺れるのを眺めながら、自室へ入った。義兄さんの書斎へ顔を出したのは「お一い、テル!」一時間後。書斎を訪ねてすぐ 「着物に着替えながらでいい。テルの置かれた状況を説明するから聞きなさい」 悉皆屋の家に生まれたのだから、着物の着付けくらいは知ってる。けど 「吉原遊郭は江戸時代から、昭和33年まで続いていた歴史ある娯楽施設だ。大見世、中見世、小見世とあるが設定は大正時代の大見世。大見世で仕事できるのは顔、仕草、声、肌、機転、頭脳が揃う者だけ。5つの頃には貧乏な家から買われ、英才教育を受け育つ大見世の遊女は借金の額も桁違いだった」 用意されているのは赤い色の襦袢に紫の着物、伊達締め一枚に帯だけ。肌着と腰紐がどこにもない。義兄さんへ目を向ければ仕草で『脱げ』指示された 「また、大見世へは引き手茶屋を通さないと上がれない。テル、残すな、全部だ」 コレも? トランクスを指せば義兄さんが頷く。ぼくは間違えていたようだ。ゆり姉の幸せはゆり姉が思い描くままに掴み取るべきもので、弟のぼくが口出すことじゃない。断ろう
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