9/14

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
襦袢に袖を通す。でも、ここからどうすればいいのかと義兄さんを見ると 「おい、赤い襦袢は遊里の者が纏うものだろう」 九鬼さんが低く言う。フジ棚の縁側を背にした九鬼さんは片膝を立て座り・・・・・・なんか格好いい。立て膝に肘をついた九鬼さんは画になる 「モデルを頼んだんだよ、説明するから少し待て」 鋭い目を暗く炯らせる九鬼さんをチラチラ見て、声を震わせながらも 「テル、遊女は紐を使わないんだ。手足を縛られたり、口を塞がれて酷い目に合わされたら仕事はできないし、病院代もかかって借金が嵩むからな」 腰紐のない理由を義兄さんが教えてくれた。長い帯は危険な男から逃げる時間稼ぎをするためのもの。解かれながらくるくる回り、出入り口へ転がっていき助けを求めたそう。といっても、大見世にそんな客はほぼ来ない。遊女に怪我をさせるのは性癖を見抜けなかった茶屋の面子にかかわるし、紹介した客までが出入り禁止となりかねないからだ。そんな説明をして貰っていると 「先生おはようございます。お、色っぽい格好してるね光彦(てるひこ)くん」 文芸出版の井原さんが訪ねてきた。この人は義兄さんの担当編集者でなぜか、九鬼さんと馬が合わない。九鬼さんは好んで他人と争う人じゃないが、井原さんに対して、額に青い血管を膨らませ鬼の形相となって激怒したことがある
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加