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「…………」
冷え冷えとする静寂の中、私はこわごわと薄目を開けた。
ヒリヒリと篭もるような痛みが今も体中に反芻している。
ぼんやりとした頭の中で、どうやら足場のない場所へ足を踏み入れ、転落したのだということに気がつく。
腕に力を込め、少しずつ体を起こしていく。
自分の体をおぼつかない手つきで探り、幸い骨が折れていなそうだということは確認できた。
(よかった……。これならなんとか一人で帰れそう)
安堵で大きく息を吐くと、額に滲み出ていた汗が冷たい風と共に徐々に引いていく。
ザリ……
カチャ
風とは違う、固く冷たい感触が私の額に触れた。
え、と思い、ゆっくりと顔を上げると
黒々とした拳銃を手にした、柴色の長い髪の男が目の前に立っていた。
「その薄い髪色……。間違いないな」
「まさかこんなに早くお目見えするとは、俺も驚いた」
「……霊幻山に棲む、雪女さん」
ゆっくりと告げた言葉はうわべだけの丁重さだけを纏い、私の心を冷やしていく。
ひき始めたはずの冷たい汗が、またじわりと滲み始めていった。
「俺は狩人。依頼を受けて、お前を退治に来たのさ」
口の端に煙草を加えたまま、男が鼻で薄笑いをする。
耳元を優しくそよぐ風の音が、どこか恐ろしげに聞こえた。
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