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「…………」
雪代の言葉に口を噤む。
鏡に映る己の姿――。
この世界と同じ、真っ白な肌と輝くような白銀の髪。
そして、唯一色のある瞳は、一般的なそれとは違う黒紫色。
(何故私は、人とは違う容姿で生まれてきてしまったのかしら……)
人々が私のことを『雪女』と恐れていることは知っていた。
それ故、この山には誰ひとりとして近寄ろうとはしない。
自分のことを考えると、気持ちが少しずつ暗い方向へ傾いていく。
そんな私の気持ちを察してか、雪代がそっと私に手を延ばし、髪を撫でてくれた。
「人間はどうしても、人とは違うものに対しては拒絶を示してしまうものだから、仕方がないよ」
「本当は俺も、あなたにもっと外の世界を見せてあげたい。けれど――」
愛しむように私を見つめる雪代の瞳に、憂いが帯び始める。
悲しいのは私だけじゃない。
雪代もこの現状に、心が傷んでいるはずだ。
私も同じように雪代の髪にゆっくりと手を延ばす。
そっと触れた肌と髪は私と同じ、雪のような白。
彼もこの見た目故、他の人間からは『雪男』と呼ばれていた。
「俺は、深雪のこの肌も髪も、瞳も。全部綺麗で好きだよ」
髪を撫でていた指が、私の頬へ落ちる。
「私も、雪代のこの色が好き」
雪代と同じ色だから。
雪代がこの色を好きだと言ってくれるから。
だから私は、私の存在をまだ肯定することが出来ているのだと思う。
「……それじゃあ、俺はそろそろ出かけるけれど、深雪はちゃんといい子にしているんだよ」
「ええ。雪代も気をつけて」
「大丈夫だよ。深雪と違って、俺はしっかりしているから」
雪代は笑いながら髪が見えないようしっかりと笠を被ると、村の方と出掛けていった。
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