第1章 霊幻山《れいげんやま》

9/13
前へ
/13ページ
次へ
外は変わらずの銀一色の世界。 日に照らされた雪は目を刺すような輝きを放っている。 山菜の場所までは歩いてだいたい二十分程かかる。 ここからの道のりは比較的平坦だったけれど、途中少し足場が悪い箇所があったため、転倒しないように気をつけなければいけない。 昨晩は雪が降り続いていたのか、昨日私がつけた足跡は見事に綺麗に消えていた。 新雪を踏む感触は、何回やっても小気味いい。 それはまるで何も書かれていない和紙に、したためた想いを一筆、また一筆と綴っていく感触と似ている。 私はその感触を楽しみながら、しっかりとした足取りで歩を進めていった。 しばらくすると、左手側に村の様子をいくらか見下ろせる場所に辿り着いた。 「ここが少し足場が悪いのよね……。間違って足でも滑らせたら大変」 私は慎重に足を踏み出していく。 問題なくその場を切り抜け、ほっと胸を撫で下ろすと、一息つくかのように村の景色を見下ろした。 家々が豆粒くらいにしか見えないため、村の様子をこの場所から感じ取ることは出来なかったが、なんとなく人々が活発に行き来する、栄えた様子が目に浮かんだ。 (雪代から聞いた村の様子から、そう私が勝手に想像しているだけなのかもしれないけれどね) 自嘲気味に一人笑いながら、また歩いていく。 すると突如、ぞわっと体が浮く変な感触が走った。 あっと思った時は時既に遅く、右足の地面が崩れ、体が地へ深く落ちていく。 視界が上下に回転しながら暗転を繰り返す。 体を打ち付ける鈍い音と共に、声にならない痛みが立て続けに私を襲った。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加