ロマンスは炬燵から始まる

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 ふたりの出逢いは20年前、薫の家の隣に二階堂一家が越してきたときまで(さかのぼ)る。  小学校に入ったばかりの薫は、引っ込み思案な性格もあって、いつも家の中で本を読んでいるような大人しい子供だった。一家で挨拶に来た同い年の朔耶との初対面のとき、母親のスカートの陰から恐る恐る顔を覗かせた薫に、人懐こく声をかけてきた朔耶の笑顔が眩しく感じたのを覚えている。  大人しく小柄で、女の子のように見える容姿だった薫は、同級生から揶揄(からか)われることが多かった。メソメソと泣くばかりの薫をナイトのように守ってくれた朔耶は、テレビの中のヒーローよりもずっと頼もしく輝いて見えた。  ひとりっ子同士のふたりは、双子の兄弟のようにいつも一緒だった。やんちゃな朔耶の悪戯に巻き込まれる形で、大人に怒られることも少なくはなかったけれど。  それでも、薫は朔耶と一緒に居られることが嬉しかったのだ。たとえ、人気者の朔耶に纏わりつく金魚のフンだと陰で言われていると知っていても。  中学高校と歳を重ねるにつれて、すらりとした長身に彫りの深い端整な顔立ち、それに加え性格も明るい朔耶はひとの輪の中心にいることが多くなった。内向的で相変わらず人見知りの激しい薫が朔耶と一緒に居るのを良く思わない輩も増えて、朔耶に気づかれないような小さな嫌がらせに頭を悩ませる日々。  少しずつ距離を取り始める薫の努力は、自ら近づいてくる朔耶によって(ことごと)く無駄になったのだけれど。
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