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知られてはいけない想いは胸の奥底に仕舞い込んで、必要以上に自分から朔耶に近づくことをやめ、誰にも気づかれることのないように、話しかけられてもひとの目を避け俯く癖ができた。
それでも、彼女の顔も名前も思い出せないのに、あのときの資料室の匂いと西日に煌めく埃の向こうに見える逆光の影が言い放った言葉だけが、抜けない棘のように今でも薫の胸の奥に突き刺さっている。
別々の大学に進んだふたりは、一緒に居ることも少なくなっていった。県外の大学に入学したのをきっかけにひとり暮らしを始めた薫のもとに、長期休暇のたびに朔耶が転がり込んでくる以外は。
大学を卒業した後、薫はひとと関わることの少ない研究職に就いた。
在学中に書いた小説が大賞を受賞し作家になった朔耶は、その風貌と切ない恋心を描いた作風で若い女性の人気を集めている。
薫の寝室にある本棚の奥に、朔耶の本が全て揃った状態で隠されているのは、勿論秘密だ。
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