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――眩い光が消失した後、昌太郎が次にゆっくりと目を開けてみたとき、そこには……信じられない光景が目の前に広がっていた。
「きゃーーーーー」「うおぉぉぉぉぉっ!!!」
誰もいない、手狭なアパートのワンルームに確かにいたはずの昌太郎は今……鼓膜がちぎれるほどの大歓声を浴びながら、数万人を超える人間の頭上に立っていた。
「あっ…………えっ……はぁ?」
信じられないことが目の前で起こり、混乱と熱気で頭がパニックになりかけていた昌太郎だったが、不思議と今自分が存在している場所だけは…すぐに理解することができた。
そう……そこは、ついさっきまで昌太郎が客として参加していた七星未来の特設ライブ会場。驚くべきは、今自分がその……“ステージの上”に平然と立っているということ。
そして、最も恐ろしく信じられなかったのは……昌太郎の体が目の前になかったこと。つまり言い換えると、ステージ上に立っている七星未来本人の体に、昌太郎の魂が乗り移っていたということだった。しかも数時間前に既に終了したはずの過去のライブステージ上に平然と存在している状態で――。
「…………」
数時間前まで、このゴミのように蠢く数万人の客の中の一人に過ぎなかった……最下層の俺が今、あの七星未来としてステージに立っている――。
前田昌太郎の頭は、今でも酷く混乱していて、とても現在の状況を把握し切れてはいなかった。
しかし、昌太郎はそのとき……今までに見せたことのない顔で、笑った。
「ははっ……はははははははは!!」
このわけの分からない状況に対する恐怖心よりも遥かに、自分が最下層から神にも等しい存在に生まれ変われたかのような感覚を味わえたことに対する喜びに、昌太郎は震えていたのだった。
そして、普通の人間ならば考えられないことに、その後の昌太郎は…あたかも七星未来本人であるかのように完璧になりきったまま、歌をうたい、セットリスト通りにライブを進行させたのである。
「皆さ~ん! 今日は暑い中私の為に来てくれてありがとう~~♪」
ついさっき、自分がお客として聞いたセリフをそのまま少年が今度は言ってみせ、“二度目の”ライブを終了させたのだった――。
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