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その瞬間、表情自体にさしたる変化は見られなかったが、明らかに目の前の店員の雰囲気が変わったのが直感的にわかった。そして、
「かしこまりました。少々……お待ちを」
そう言われてしばらくすると、先ほどの店員に代わり、若い上司らしき男性が姿を現したのだ。
「大変お待たせいたしました。それでは奥のほうへどうぞ」
隙のない立ち姿、動作に加えて、含みのある怪訝な笑みを浮かべてそう言うと、言葉通り店の奥……最深部と思われたアダルトコーナーのさらに奥へと足を進め、ネームプレートも何もない、完全に隔離されたある扉の前まで行き、ようやく歩みを止めた。
「な……何だよこれ」」
思わず言葉を失った昌太郎の眼前に広がっていた扉の中の光景は、本でもDVDでもない謎の分厚い冊子が数え切れないほど立ち並ぶ異様な空間だった。
「ここは……お客様の中でも選ばれたお方のみがご利用できる、当店の“裏サービス”となっております」
「裏……サービス? ……じゃあ、僕はその選ばれたお客さんってことになるんですか?」
「その通りでございます」
そう間髪入れずに即答し、にこっとその店員は一点の曇りもない笑顔を見せた。
「でも、俺なんかが……どうしてその……選ばれたんですか?」
ふと疑問に思ったそのことを、隠さず尋ねてみると、今度は少しの間を置いてどう答弁するのか考える素振りを見せた後に、黒服の男はこう話した。
「…………選考には、実に多くの条件が存在しておりまして、その内情をお話しするわけにはいかないのですが、お客様は少なくとも…その条件を何らかの形で満たしていたことにはなるでしょう」
「…………」
いまいち状況が飲み込めない昌太郎だったが、ひとまず昨日から一番気になっていたあのことを……ポケットから例の黒い手紙を取り出して思い切って聞いてみることにした。
「この――レンタルライフって……結局なんなんですか」と。
その言葉が放たれた瞬間、嫌な静けさが辺りをまどろむように包み込み、そして男の説明が始まった。
「順を追って……当店のサービスについてはお話をさせて頂くつもりでしたが、お客様には単刀直入に事を運んだ方がよさそうですね」
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