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また寂しそうに微笑むジョージへ、マリアは涙をこらえて背を向けた。
「ちょっと待ってなさい。この馬鹿ジョージ」
いまだもみくちゃになる衛兵たちから、アランをさらって、マリアは車を走らせた。アランがハンドルを切りながら、マリアに尋ねる。
「次は、どちらへ?」
マリアは足をくみ、腕を組んで叫んだ。
「ロントンの議会よ!!」
◆
ロントンの議会は、ご想像の通り大混乱中であった。国王の退位、ましてそののちに、平民の恋人とご結婚されたい――、国家の存亡にかかわるぞ、と言わんばかりに、みながやんややんやと古い時計台の中で激論を交わしていた。
「国王陛下ももう十分にやってくださった。政府としてご退位を認めてもよかろう」
「ダメだ。国王は諸外国王族との信任も厚いお方。そんなお方にやめられては困るっ」
「この中に男はいないのですかっ!!」
議論紛糾する国会議事堂に、女の凛然とした声が響き渡る。みながびくりと身を震わした。国会の議場の中心に、いつの間にかあの鋼鉄の女が立っていた。もうとうに、引退したと思っていたのに。みながぽかんとして、マリアを見つめる。マリアはマイクをかっさらうと、いきなり演説をぶちあげた。
「いいですか、みなさん。国王は国の主権者ではないのですよ! そのお方の交代があって、何の不都合がありますか? それに国民感情の件も、考えてごらんなさい。ご老体の陛下をいつまでも酷使して、と恨まれるのは、我々政治家なんですよ! 」
マリアはなおも声をふるって語りだす。
「あら、みなさん、お気に召さない? なんなら私がもう一度出馬してさしあげましょうか!? そうしたら国王の退位をマニフェストにかかげてさしあげるわ。その私に勝てる男がいらっしゃるなら、出ていらっしゃい。うけて立ちます! 」
これに、議場の全員が静まり返った。あるうら若き議員は、伝説の首相の演説になぜか震えがとまらず、中堅のある議員は不思議な感覚を覚えていた。この人の姿はまるで、夫を守る妻のようだ――と。
やがて議会の面々は、ひとり、ふたりと拍手を鳴らし始めた。その拍手は議会全体に広がっていき、波のようにいつまでも彼女に押し寄せ続けた。彼女はその中心で、手をあげてその声援にこたえていた。ただ一人で、気高く、まるで戦に勝利した勇者のように。
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