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マリアは貧しいお針子の家に生まれた。父は母がマリアを産んですぐ家を出ていき、母は祖母にマリアを預け、自分は身を粉にして工場で働いた。その無理がたたって、マリアが七歳の時、母は世を去った。
父に捨てられ、母に死なれ、老い先短い祖母との貧しい暮らし――。それでも、勉強だけはマリアは頑張った。
学校ではクラスメートに、
「ほら、お前んち、教科書代もまともに払えないんだろう。これやるよ。嬉しいだろ。俺の鼻水ふいたテイッシュも挟んであるからな」
と散々にいじめられたが、それでもめげずに勉強を怠らず、毎日登校し、必死に勉強をこなした。
マリアには夢があった。だから何でも耐えられた。
(いつか、私みたいな、貧しい人たちの味方になる政治家になるわ)
そう心中誓っていた。
そして彼女はブリターニア一の難関大学であるオックスワードに進学を決めた。もはやよぼよぼになった祖母も、泣いて喜んでくれた。二人で貧しい木のテーブルに、ささやかなご馳走と、シャンパンを並べて、合格を祝した。
彼女はオックスワードでさっそく、政治研究会に入り、勉学を重ねた。
そんな時である。皇太子さまが、貧しい民への無理解を示したのは。
その記事を読んだ時、マリアは体が熱くあるほどの怒りを覚えた。この国の国王となるべきお方が、貧しさを知らぬでよいものか。
あまりもののかぼちゃでスープを作り、朝は一杯だけ飲み、昼はそのあまりにひとかけのパンをしみこませ食べるのだ。その屈辱、貧しさ、苦しさ、ひもじさ。
(このお人はそれがどうしても分からないのね。……そうだわ!)
マリアはそこで、みなが流行っている遊びに興じようと思った。
オックスワードでは、著名人におふざけで、ファンレターを送るのが流行っていた。勿論、そういった著名人が、学生相手に本気で返信など返さないが、まれにバースデーカードを送ってくれたり、電話がきたりするので、学生の間で、ささやかな暇つぶしとして、そういった遊びが確かに流行を見せていた。ある者は結婚式に呼んだら、女王がやってきた、という話も真実だったと語り継がれている。
それもまあ、馬鹿らしいが一興と、マリアもみなに内緒で、手紙を書いていた。お相手はもちろん、先日の世間知らずの未来の国王さまに。
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