あの子はお姫様

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「私のあの文句の垂れようを読まれても、来てくださるあなた様のご厚情に感謝します。未来の国王陛下」 「この僕を貧しいとはね。笑ったよ。苦笑だけれどね」 「この後、その貧しさについて、この大学のホールで討論会をやるんです。よかったら」 「もちろん参加させて頂こう。君からは学ばせてもらえる機会が多そうだ。ねえ、マイプリンセス」  そう言ってこの上なく美しい男が、また手の甲にキスを落としてくるのを、マリアはくすぐったいような、なんだか腹立つような気持ちで見つめていた。 ◆  マリア主催の討論会やチャリティーは盛況に終わり、そののち、人気のなくなった夜のホールでマリアは一人、後片付けをしていた。 その心中は複雑であった。 (あのバカ皇太子さま、絶対途中で帰ると思っていたのに。最後まで討論を聞いて、それどころか貧しい民の現状のところで涙を浮かべてさえいた。気に喰わないとは思っていたけれど、悪い人ではないのかもしれない) それは初めて知る感情であった。今まで冷静怜悧で、常に正しい選択を選んできたはずの自分が、考えを改めるなんて。 (でも、討論会が終わったらお城へ帰ったのね。ホールのどこにもいなかった……ふふ、まるでおとぎ話のお姫様みたい) だけれど、よかった。 「これで少しでも、貧しさについて知って頂ければ、いいのだけど」 「探したよ、僕のプリンセス」 「ぎょええええええ」 いきなり後ろから抱きしめられ、マリアは毛虫を踏んだみたいな雄たけびをあげた。ジョージは驚いて手をはなした。 困り顔のジョージを、紅顔のマリアが睨む。 「どうしたんだい、僕のプリンセス。まるで蠅に求愛されたかのような困り具合じゃないか」 「どうしたもこうしたもないですよ! いきなり人に抱き着くなんてっ」 「だけれど、女はみんなこうされると喜ぶけれどねえ」  さも意外そうに言ってくるこの皇太子さまに、眉間にしわ寄せ、マリアがそっぽを向く。 「あら、それはごめん遊ばせ。私は王子様と関係のある女性のような身分高き人々ではないので。不躾なのでしょう」 「ははあ、それは今後は不躾を直しますので、一生おそばにいさせて下さい、という意味にとってもいいのかい」 「いい訳ないですっどこをどうとったら、そうなるんですか」  マリアがごみをまとめて立ちあがる。 「とにかく、失礼します。冗談に付き合っている暇はありませんので」 「……冗談ではないとしたら?」  
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