あの子はお姫様

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この一言に、マリアがジョージの方を振り返る。ジョージは歩み寄って、腰を折って、マリアの手の甲にキスを落とした。 「君の討論会は素晴らしかった。君は貧しい人たちの希望だ。経済的な貧しさのみならず、心の貧しさを君は教えてくれた。こころの貧しさ、不寛容を訴える君の瞳は、この世界のどんな宝石より美しく、貴かった。僕は、君にもっといろいろ教えてもらいたい」 「……それは、あなた様の家庭教師になれと仰っているのでしょうか」  マリアがどぎまぎしながらうろんげを装って問うと、ジョージはいいや、と首を振った。 「恋人になって欲しいんだよ」 ◆  それにどうしてマリアが頷いたのか、それはいまだに自分でもわかっていない。あまりにジョージが、まっすぐにこちらを見つめてくるせいもあったかもわからない。ただ、決して、ジョージが皇太子さまだから、という理由ではないのは分かってもらえると思う。二人は秘密のデートを重ねた。ジョージは変装し、マリアも変装した。ある時は成金へ、ある時は王宮のゴミ拾いのボランティアへと。 二人で様々なコスチュームを、シチュエーションを楽しんだ。  ジョージは優しく、紳士で、まっすぐだった。マリアからさまざまな話を聞くのが好きだった。その美しい瞳を見つめるのが、マリアもたまらなく好きだった。たまに通り雨のように降ってくる彼からのキスに、マリアは喜びを感じた。 いつかは公園でアイスクリームを食べながら、二人は夢を語り合ったこともある。 「政治家になりたいの」 そう語るマリアの瞳を見つめ、ジョージは。 「なれるさ。君ならば」 と力強く頷いた。 「ジョージの夢は」 マリアが問うた。 「僕の夢は、そうだな。温かい家族が欲しいな。今まで、いなかったんだ。そんな存在」 それなら私が――そう言いたかったマリアの唇は、不思議と動かず、その沈黙にジョージはマリアへとキスをした。
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