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そんなある日のことだった。
「マリア、君にお願いがある」
マリアの部屋で迎えた朝、マリアが紅茶を淹れていると、ジョージがおもむろに言った。
「僕の母に会って欲しいんだよ」
これに、マリアは温めていたカップを取り落としそうになった。ジョージの母、女王に、会う? そんなこと、そんなこと……。
「頼む。君が夢を持っていることは知っている。僕はその夢を永遠に応援したいんだ。願わくば、君のそばで。だから、そのために母に会って欲しい」
ジョージの、「愛する人に無理強いは出来ないが……」という言葉に、マリアは沈思し、やがて頷いた。
◆
マリアはその日、慣れぬ桃色の、フリルのついたレースのドレスを纏い、王宮の玄関ホールに招かれた。ジョージは緊張して、涙ぐむマリアの手をずっと握っていてくれた。やがて現れた女王は、七十を過ぎても矍鑠とし、白髪を上品にまとめ、大層気高かった。それから、彼女はくちどに言った。
「今日もロントンはすごい人ですことね」
それからいかにも、面倒くさそうに扇で自らをあおぎ、マリアのことなど一瞥もせずに言った。
「で、私のジョージ、それが、あなたの?」
「それではありません。マリアです」
ジョージの一声にも、女王はまったくたじろがず。
「その女性はどうも政治家を目指しているとか」
と訊いた。マリアはようやっと顔をもたげて女王へと声を発した。
「はい、貧しい人々の味方に、私は……」
「くだらない!!」
女王のこのはきとした声に、マリアは一瞬身を震わせた。彼女のその心の中は、恐怖と、怒りに埋まっていくようだった。
「あなたのような身分のものが、王室に入りたいというならまず、そのくだらない、おとぎ話のような夢は捨てなさい。そんな、子供みたいなことを言って」
マリアの目は涙で潤み、顔を上げることが出来なかった。どうしよう、怒りと悲しみのやり場がない。この国の女王に、ずっと温めていた夢が否定されてしまった。どうしたら、どうしたらいいの。
その時、ジョージが叫んだ。
「マリアの夢はくだらなくなんかない!!」
その叱声に似た声に、王宮のホールは静まり返った。女王はしばらく唇をわなわな震わし、出ていきなさいと二人に命じた。マリアはジョージと王宮を出て、美しい前庭でかたく抱擁した。
「愛しているわ……」
マリアは何度も告げた。
「愛しているのよ」
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