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アランの寂しげな顔に、マリアも我知らず打ち沈んでしまう。
そこへ何も知らぬ執事が、姫を迎えに来たのを認めた。アランがマリアをぎゅうと抱きしめた。
「アラン」
「離したくない」
「でも、ダメ、よ。私はあくまで、王女なのですから」
その腕から外れて、マリアはドレスの乱れを直し、城の方角に帰っていった。その途中、何度も何度も、愛しき人を見返りながら。
◆
翌日、謁見の間に通された朝方、マリアの前に、ミンクをふんだんに使った派手なドレス姿の王妃が立った。黒い髪をきつく高く結わえた、厳しい表情の王妃。金塗の豪奢な謁見室を許され、粗末な白いドレス姿でマリアはその彼女に拝謁したのである。
美しいが目元の険しい王妃ジュリアは、姫を穢れたものを見るかのように見下ろし、それから言った。
「姫よ、はっきり申しておくわ。今、この国のために、贄が必要なことは紛れもない事実なの。だから、あなたにはこの国のために死んでほしいのよ」
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