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――千年以上のはるか昔、確かにその島は在った――
美しい国であった。夢のように眩いばかりの城があって、城下は栄え富み、そこに住まう民たちはよく働きよく笑い、まさに天の国を思わせた。
西洋風にしつらえられた美と、南国風のおうようさ、明るさが街の中に上手に織り込まれていた。
今はもう、海の底に滅び去った国を惜しんでこんな歌が伝わっている。
海の楽園
かの地は今は美しく艶やかに咲き誇っているのであろう。
あの地でしか色づかぬ薔薇のその紅の深さは、かの地で笑う君の唇となんと酷似して。
あの地でしか見られぬ紺碧の空は、水平線でまじりあうその海の色は、なんと君の瞳を思わせることか。
嗚呼、素晴らしきこの世の楽園。そこを知れば世に生けるものはすべて、潮に引きずられるように楽園に足を運ぶのだろう。
あの夜の絶望!
ああ、けれどかの地は、
今や海の藻屑となりはて、あわれ
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