姫と実らぬ恋

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多くの民をみちづれに、女神の怒りをかったとし、贖罪をうたい海の底へ滅び去っていった。  嗚呼、海の底に沈む君よ、その魂を呼び寄せられ給え!  今一度ぼくらはここで会えるだろうか。 ◆ 千年よりさらに昔、今は海の底に沈む島に物語があった。この世の楽園のような、と謳われたその島の名はメダイア王国。名の由来は、島に代々伝わる神話の女神の名ゆえだという。女神メダイアは大層美しく高貴であったが、悋気を起こしやすく、その上ひどく寂しがり屋という伝承もあって、寂しがり屋な彼女を一人きりにして、怒りを買わないように、この島には贄を捧げる儀式があった。身の穢れを知らぬ美しい乙女を、見るも無残な姿に変じさせて殺す。すると、自分より劣ったものがきて孤独を薄め、いい気分になった女神は再び、歓喜の雨をもたらすとも。つまりは干ばつが起きると誰かが絶対的に犠牲にならなくてはならないのだった。 その伝承を王女マリアが初めて聞いたのは、乳母よりであった。御年十一歳の美しき乙女は、常日頃この島におわする女神の伝説に、よい気持ちを持っていなかった。贄の伝説や、それを欲する神への妄信などの話を聞くと、胸騒ぎがするほどであった。 (本当に、メダイアは自分より劣ったものを捧げられて、歓喜の涙をこぼしたのだろうか) ある日などは、海の見える丘の上の城にて、海風のなかバルコニーを歩き、そんなことを考えた。 馬鹿な神官の申すように、本当にメダイアの歓喜の涙が雨となって、民に潤いをもたらすのか。 (いや、そうではないのだろう。あるいは) 王女はふと、空をあおいだ。メダイアは一体、この紺碧の空のどこにおわすのか。 (メダイアは自分に哀れな娘が捧げられたのを、悲しんでいるのかもしれない)  それでも、彼女は王女であった。それも力なき。絶大な力を持つ神官の定めたことに、口出しを許される立場でもなく。ただただ、雨の降らぬ年に、死にゆく乙女のことを考え、胸を痛めることしか、許されなかった。
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