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二人はまことに仲がよかったが、それは十歳の年の離れもあり、兄と妹の域を出ないものであった。なにせマリアは王女である。万が一にも恋に落ちれば、悲惨な現実が待っているのは、若き二人にとて目に見えているだろう。
「ねえ、アラン、私の肌を見てくれない?」
マリアが十四歳になった時だったか。ある日、またメダイアの呪いの森のなか、二人は美しい泉の岸辺にて語らっていた。むろん、マリアは例にもれず、鮮やかに宮中から脱走したのである。
その折のこの一言であった。アランが口をあけはなしたのも道理だろう。それから打ち解けた二人のあいだに苦ではない沈黙が満ちる。
「マリア、俺にロリコンになれと?」
「違うわよ馬鹿。この変態。あなたになんて指一本触れさせないわよ」
「じゃあなんだ。さっき枝ぶりの激しい森を馬で駆けた時、まさか怪我でもさせたか?」
アランの顔がにわかに曇る。王族を怪我させれば、焼き鏝の末車裂きである。マリアの口元に微笑が兆す。アランったら、逢瀬を重ねているのにそんなことを案じるなんて、怖がり! そうまで思って王女はくすと、笑みこぼした。逢瀬を重ねても、アランは決してキスをしてくれない。手すら握ってくれない。なのに、王宮から逃げる時に飛ばす、リボンを首に巻いた白鳩を見ると、すぐに白馬でこの森に駆けてきてくれる。
(私のことを、わがままな王女様だとしか思ってないんじゃないかしら)
私はアランをこんなに好きなのに……。それは絶望的な恋であるとは知っていた。王の愛を奪った女の娘である自分に、恋愛結婚などあの義母が、あの王妃が許すはずはなかった。
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