姫と実らぬ恋

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 男盛りのアランは、より一層美しくなった顔を険しくし、メダイアの眠るとされた山の道を降りていた。ふもとの村でマリアと待ち合わせである。蹄の音が重なるたび、物思いにとらわれる。 (いやな任務だった)  いまや騎士団副団長にまで上り詰めた彼の今日の仕事は、メダイアに捧ぐ乙女を無事、贄の神殿まで送り届けることだった。すなわち乙女の顔の皮をはぎ、ずたずたにして、メダイアがもとにその命を捧ぐ、という儀式の行われる神殿まで、贄の乙女を連れ出す仕事。贄なるその乙女は毅然としていたが、やはり神殿に連れていかれる直前には恐ろしくなったらしく、 「あ……ごめんなさい」 と天をあおぎながら、失禁していた。親からメダイア様のところに行くことは、大変な誉なのだと聞いていたのに。「体はこんなに怖がっているの」うやうやしく女官に白地のドレスの染みをぬぐわれながら、贄の乙女はうなだれていた。 「でもよかった、これでよかったの。私が贄になれば、大好きなお父様とお母様に一生困らないほどのお金が届けられるんだもの」  だけど……乙女はメダイアに捧げられる折の、白い美しいドレスを眺め、涙をこぼした。 「このドレス姿を、もっと父と母に喜んでもらいたかった」  アランは神殿へと進む乙女を見送る際に、彼女がちらとこちらを向いて一礼したのがわかった。いかに優れた乙女であろうと、神官による託宣は絶対。 (だが、あまりにむごいことを……)  アランは鬱々とした気分にかられて、森深い山のふもとへ急ぐ足を速めた。 ふもとの村に着く頃には、すっかりあたりには夜のとばりが落ちていた。村にはかがり火がたかれ、そこを着飾った男女が踊りながら過ぎては、かがり火の影までもが舞う。今日はこの村で信仰されている【満月】の祭りなのだ。祭りの日はみなみな盛装して、泉の付近で舞踏を繰り広げるのがならわしなのだ。 既に、冴え冴えとした月光の照らす地で、男女が軽やかに舞踏を楽しんでいる。アランが現れる。すると村の女子たちが、目を輝かせて一斉にアランに駆け寄る。 「アラン様、お久しぶりねえ。ねえ私と踊ってくださるでしょう」 「ねえ、いいでしょう」  どの乙女も頬を紅潮させ、大層愛らしい。そこへちょうど、おしのびで逃げてきたマリアもやってきた。
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