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(私のことはいいから)
といった風の瞳で首を振る。この上なく楽しそうに微笑みながら、どこか寂しそうに。
と、そこで村のおさが酒によったおぼつかない足取りで現れて。
「おお、なんだアラン、お前は三人もの女にとらわれているのか。ハンサムで剣技もうまく、高給取り、まあ女が惚れない訳はないわな」
と高笑いをした。この騒ぎを聞いた男女たちが集まり、アラン様は私のよ放しなさいよと、彼を物かのように引っ張る女どもを、男たちがげらげら笑っている。
「おい、この村の出世頭の色男! どうだい。そろそろ身を固めてみないか。俺の娘は美人だぞ」
「子供は可愛いぞ! お前もいい加減結婚しないと」
男たちの思わぬ攻勢に、アランはしかめつらになった。
「ねえアラン、私、アランとだったらそうなってもいいわ。ねえ」
村のおなごたちが身を摺り寄せてアランにつきまとってくる。その隙をぬい、マリアが席を外し、かがり火の届かぬ森のうちに消え去った。
◆
マリアは一人ぽっち、だった。
(……わたくし、どうして、あの男を好きになってしまったのかしら。この恋には先などないというのに)
あたりは星が空にさんざめいて、泉はうまれては崩れ、また泉をなし光り、ヴィオラの音が残り香のように流れる。夢のように美しい時間だった。
「おい、マリア、ここにいたのか」
ふと、マリアの背後から男の声が聞こえた。
「なに怒っているんだ。別にお前がイライラする件でもないだろう」
白い騎士団の軍服を纏ったアランである。マリアは少し、顔を背ける。
「別に、怒ってはいないのよ。ただ、ただちょっとだけ思っただけ。とびきり悲しいことを。……アランは馬鹿だわ。私の気持ち、ちっともわかっていないのねって」
そう言って姫は愛らしい大きな瞳を濡らして、告げた。
「自分の愛してやまない、そして決して結ばれない運命の男が、別な女をもらうように目の前で言われていたら。それを聞いてしまったら。どう思うか、お分かりにならないの?」
アランがくすと微笑む。
「なんだ、すねているのか?」
「当たり前よ。あなたが悪いんだわ」
「ならお詫びの品をさしあげないとな。何がいい?」
マリアは少し、頬を赤らめてうつむく。
「アランが、キス、してくれたら」
これにアランはすっかりマリアにまいってしまって、マリアの頬に手を置いた。
「正直ものには最高のものをさしあげような」
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