彼女たちの苦悩

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家を出てすぐ父が追いかけてきている気配がしていた。 うまく撒いたつもりだけれど、まだ探しているならここは自宅から近すぎてすぐに見つかってしまう気がした。 そこで電車に乗って移動することにした。 とっさに持って出たバッグには、財布と定期券、リップクリームと家の鍵だけ。 ポケットのスマホは電源を切ったままになっている。 切符を買おうか迷い、とりあえず定期券を改札に通して駅構内に入った。 ほとんど仕事帰りであろう大人たちばかりの電車に揺られながら、ドアに凭れて外の景色を眺めていた。 電車を降りたのは定期券の最終地点である藤城駅だった。 小学生の頃から通っている馴染のある駅で、駅名を告げるアナウンスに無意識のうちに反応してしまった。 発車する電車を見送って、出口へ向かう人の背中について歩く。 .
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