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袖に腕を通し、足袋を履いて妻から猟銃を受け取った。
私の仕事は猟師で運のいい日はイノシシなどを狩れたりもする。
まあ大抵は兎や狐などが関の山だが、毛皮や肉はよく売れるので助かっているのだ。
「そんじゃ、行ってくる。」
猟銃の弾薬も確認せずに私は家の戸を開け外の世界へと動物の命を狩る仕事を始める。
命を奪う仕事、今ではそんなことを気にも留めなくなっていた。
最初の頃は可愛い兎や美しい狐を狩ることに抵抗があったが、家族のため、生活のためには代えられないと思い、重い引き金に指をかけた。
その引き金も今では指になじみ、私の猟師の腕はめきめきと成長していったのだった。
山に入るといつもの道をゆっくりと進む、音を立てないように地面にはかかとから足をついて腰を落とし耳を澄まして周りを見回す。
木の葉が茂る春の芽吹きの季節、動物たちも意気揚々と走り回るに違いない。
今日は久しぶりに肉が食べれるかもな。そんな淡い期待を胸に私は獣道を歩き、動物の痕跡を探していた。
痕跡はあるのだ。動物のいた形跡はあるのだ。
しかし、その痕跡を残した獲物がまったく、さっぱりと見当たらないのであった。
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