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獣道の通りには大きな岩があり、私はいつもそこで昼食をとっていた。
そこは常に湿気があり、苔が色鮮やかな絨毯のようで私のお気に入りの場所のひとつである。
岩の上に腰かけ、猟銃をそばの枯れ木に立てかけた。
「痕跡はあったんだがな...。」
妻が出かけるときに渡してくれた握り飯を頬張りながらポツリとそんな愚痴をこぼす。
「ん? 何の痕跡だ?」
その声は隣から聞こえたものだから私は驚きのあまり、握り飯を落とし、さらには腰を抜かし、岩からさえも転げ落ちた。
声の主を見るとそこには狐がちょこんと座っていた。
まだ幼さのある狐で私が転げ落ちたことよりも私が落とした握り飯に興味があるようで、じっと見ては動こうとはしない。
私にとっては絶好の好機だが、そんなことよりも驚きのほうが勝ってしまい彼を捕らえようとは思わなかった。
「これっ、貰ってもいいか?」
岩からポンと飛び降りて、興奮気味に握り飯の目の前で聞いてくる。
珍しいものを見つけた子供のようにはしゃぐ狐だった。
匂いを嗅いだり、ぐるぐる周りを回ったりとなにかと忙しい狐である。
ついにはこっちを見て答えを催促してくる始末。
岩場の冷たい空気などどこに行ったのか、ファンタジー要素満点である。
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