連れ去る相手を間違えていませんか?

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「姫はどこだ? 隠しても無駄だぞ」  屈強な魔物の軍隊に為す術が無い。  姫を匿う部屋へと、魔王の侵入を許してしまった。 「見つけたぞ。さあ、大人しく妻となり、魔王の子を産むがよい」  姫は執事の背中に隠れ、兄のジーンが魔王の前へと飛び出す。 「ひっ、ひっ、姫は、わっ、渡さないぞ! ぼっ、僕が相手だ」  ガタガタと足を震わせ、両手を広げて妹を守ろうとする。魔王を目の前にした恐怖で、ジーンの瞳には涙が溢れていた。 「フハハハハ! 笑わせてくれる……可愛い顔をしたナイト様だな。か弱い女の様な兵士しか護衛に付けられぬのか?」 「うっ、煩い! いっ、妹は、ぼっ、僕が守るんだ」 「妹?」  魔王は動きを止め考察する。  いくら何でも宮殿の兵士たちが弱すぎた。それに、美少女と見間違うほどの可愛い顔をした男が、泣きながら姫を護衛している……明らかに異常だ。  目的の姫に視線を移すと、鋭い目付きで睨み返してきた。  謀られていると感じた魔王は、一つの答えを導き出す。 「なるほど……替え玉という訳か。フフッ、簡単に騙されると思うな。お前、名は何と言う?」 「えっ? ジーンだけど……」  名乗った瞬間、魔王は凄まじい速さでジーンをお姫様抱っこした。 「わっ、わわわ! なっ、何をするんだ!?」 「我を欺けると思ったか。優しく潤った瞳、整った鼻筋、ぷっくりとした唇、小顔に映える美しい髪……白状したらどうだ、ジーン姫?」 「ひっ、姫? 何を勘違いしてるんだ。ぼっ、僕は……」 「これでもまだ、僕っ娘(ぼくっこ)を貫き通すと言うのか!? 気に入ったぞ。我が嫁に相応しい」 「だから、違うって! 執事の後ろに隠れているのが妹のアリスだよっ」 「あれが姫だと? 確かに美しい顔立ちをしているが、目付きが鋭すぎる。それに殺気も放っておるではないか。あちらが王子であろう。だが、念の為に確かめておくか」  魔王はジーンの耳に優しく息を吹きかける。 「あっ……だめっ……耳は……うっ……」  ジーンは頬を赤らめ、体を震わせた。 「フッ、これで決まりだな。そんな可愛らしい反応で男と言っても、誰も信じぬ。さあ、婚姻の儀を挙げようぞ」 「ちょっ、だっ、誰か、助けてくれ!」  アリスが飛び出そうとして、執事のセバスに止められる。  そして、魔王は機嫌よく帰って行った。
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