第1話 真夏と青年

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 柱の陰にいたがそれでも熱く、いつもより電車が来るまで時間が長く感じた。電車に乗れば学校近くの駅までは、入るドアは反対側で、ほかの駅でもそのドアは開かないため、いつもはそのドアの近くに立っている。いつもは…今日に限っては人が多くこの線には似合わず混んでいた。都会にしては十五分おきにしか電車が来ないため、遅れた人が多ければこうなることも少しはあった。  今日は女性が多いな。せっかくのクーラーが人ごみのせいで半減かよ。  この線は老若男女、外国人どんな人でも乗るが、ここまで女性が多いのは初めてだった。だが、俺はいつも通りなら左手を入ったドアの反対側の手すりにかけ右手でスマホを触っていた。マナーモードにして音量をさげ、今はやっているソーシャルゲームをして時間をつぶそうとしていた。いつもなら。今日はたまたまそのソーシャルゲームが十四時までメンテナンスなので今日は適当に動画サイトにつなぎ適当にクラシック音楽を選び、ポケットの中にあるスマホをしまうとき。 「この人痴漢です!」  俺の前にいる女性が俺の左手手首を持ちあげ盛大に掲げた。今日の左手に有給休暇を与えてしまったのが運の尽きだった。  そのとき俺は混乱などではなく、してやられたと考えていた。  このような事件の場合、冤罪だろうが、警察行きが確定。その後解放までは十万円ほど相手女性に払わなければならない。別に貧乏というわけではないが。十万円を溝に捨てるぐらいなら逃げ出したほうが絶対に利がある。何より、周りが女性だらけだから。  少しのざわめきが終わると、彼氏らしき人が俺の左手をつかもうとしてくる。     
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