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幹雄はいわゆる天才だった。三ヶ月か四ヶ月に一回くらいのペースで小さな短編小説のコンテストに入賞して、賞金を貰ってくるのだから天才なのだ。
対して和樹はからっきりだめだった。小説は好きだが、それでも和樹の書いたものは選評の一つも貰ったことはなかった。
終礼が終わると和樹は夕焼けに撫でられた教室を逃げるように抜ける。幾つかの階段を下りたり上ったりして、人のいない校舎の端にポツリとある扉を開けた。
コンクリート色の小さな部屋が和樹と幹雄とそれから晴佳の文芸部の部室だった。壁際に本棚があって、そこに収まらないだけの図書が床から積み重なり、机が二つとソファが一つ、本の隙間に埋もれるように静かにおいてある。
窓の向こうのトマトを潰した色の油絵のような景色の中、グラウンドでサッカー部がなにか騒いでいる。
部室には和樹が最初にやってくるのが常であった。彼はデスクに座り、窓の外の不器用に塗りたくられた朱い夕日を見ながら静かな声で呟いた。
「また幹雄か」
和樹は一人でいるとき考えていることを声に出す癖があった。そうすれば頭の中の不安定な形のない何かが音に変わり、重みを持って現実に溶け込むようなそんな気がするからだった。
「あいつばっかり......」
溜息をつく。
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