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冬至を過ぎたあたりから急に夜が更けるのが早くなった。まるで太陽が寒がって空から足早に逃げて行くように、午後の五時にもなれば群青色の闇が星を孕みながらそっと天空を一塗りする。
そしてそういう時間帯になってようやく件の幹雄が部室にやってきた。
「入賞しました!」
彼は狭い部室に入るなり、そう言って歓喜に浸った。晴佳が拍手し、和樹は拗ねたように横目で見た。
はだけたシャツの襟から色ぽい鎖骨が見える。幹雄がいるといつもさわやかな良い香りがした。
「どこに行ってたんだよ」
和樹の質問に幹雄が眉を吊った。
「サッカーしてた」
思わず失笑。
今まで自分が眺めていた窓の外の景色に幹雄が溶け込んでいたなんて。
「じゃぁ、選評読みまーす」
そう言って彼は晴佳の隣に座ると、黒の革の鞄から携帯を取り出して、Webに載せられた選評を音読し始める。
和樹は敗北感にも似た鉛の味が口の中に広がり、視線を置く場所を失って、また窓の向こうに目をやった。
和樹にとって、彼の声は酷く耳障りに聞こえたし、それからその選評にいちいち頷いたりする晴佳も鬱陶しく思えた。
彼の選評は意外と長くて、いや長く感じただけなのかもしれないが、それが終わると彼は立ち上がって、背伸びをした。
「今日、焼肉奢ってあげるけど来る?」
「いっきまーす!」
晴佳は一番乗りに手を挙げた。
「和樹は? どうする?」
「ごめん......帰る」
「あ、そう」
幹雄は拍子抜けしたらしい。
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