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和樹は酷く自分の腹のなかで嫌なものが渦巻いているような気がして、荷物を纏め、それ以上何も言わずに部屋を出た。
帰りの道は寒かった。
マフラーを口元まで巻いて、自転車で風を切る。街中の明かりがぼんやりと視界の中で揺らめいていた。
今、幹雄と晴佳は二人で楽しんでいるのだろうと思うと、まるで胃袋を細い糸で縛られたかのような吐気がした。
自分がいなくても何も変わらない。
そんな現実を包む冬の空気はとても冷たくて、向こうの交差点を渡る高校生のカップルを和樹は羨望と軽蔑の苦い瞳で見ながら自転車を走らせた。
※
やがて音もなく冬休みがやってきて、大晦日がやって来た。その晩、階下のリビングから家族の談笑が聞こえてくる中、和樹はパソコンに向かって年明けの短編賞の為の原稿を打ち込んでいた。
机上のランプがチヂッと揺れる。部屋の白い壁や暗色のカーテンを黄色い明かりが薄暗く染めている。机の上には好きな小説家の文庫本が積まれていた。
携帯が短く着信音を鳴らす。
和樹はキーボードに触れる手を止めて、肩に詰まった息を抜いてから、文庫本の上の携帯を取った。
晴佳から明日、初詣に行こうという旨のメッセージが届いていた。
それは幼馴染の和樹と晴佳にとっては毎年の事で、元旦になると二人で近くの浅葱神社に参拝に行く。
和樹は〈行く〉とだけ返して携帯を切ろうとした。だがすぐ〈お年玉持ってきてね〉とメッセージが入る。
和樹は首をひねった。
〈なんで?〉
〈最近ミキ君、頑張ってるじゃん? だから二人でプレゼント買おうよ〉
和樹は淡々と感情もなく表示された晴佳からのメッセージに溜息をついた。
また幹雄か......。
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