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しばらくの間、ジェナは涙を流し続けていた。龍勝はそっと指で涙を拭いてあげた。
「オレには何もしてやることができない。こうして、オマエや多くの人々を傷つけることしかできないんだ」
龍勝はジェナの目を見つめながら言った。ジェナの目には光がなかった。龍勝が涙を拭いていることにも気付いていないようで、顔は無表情のまま、じっと正面を向いて座ったままだった。
「うまくいったようだね」
後ろから男の声がした。
「ええ」
龍勝は振り向きもせず、そっけなく返事をした。
「コイツの心は完全に『心の迷宮』に堕ちていきました」
「どの生物にも必ずある統一された無意識の世界か。そこがどんな世界か知っているかい?」
「いいえ。ただそこに堕ちればよほどの強い意志じゃない限り、こっちには帰ってこないってことは知っています。あと、抜け殻のようになってしまうことも」
「二千年生きていても知らないことがあるんだね」
「オレの知っていることはほんの一部です。長い時間生きていても全てを知ることはできませんし、知っても全て理解することはできません」
「じゃあ、不老不死になって何を知って理解したんだい?」
「・・・大切なものすら救えない無力感と、失っていく孤独、言葉にできないものばかりですよ。だからオレには何故人間が不老不死を求めるのかが理解できない」
「なるほど。経験者は語る、か。生物は寿命があるから頑張れるものだからね。君のように不老不死は拷問と同じかもしれないね」
男は哀れむように龍勝を見た。
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