思い

8/24
前へ
/83ページ
次へ
 しばらくの間、ジェナは涙を流し続けていた。龍勝はそっと指で涙を拭いてあげた。 「オレには何もしてやることができない。こうして、オマエや多くの人々を傷つけることしかできないんだ」  龍勝はジェナの目を見つめながら言った。ジェナの目には光がなかった。龍勝が涙を拭いていることにも気付いていないようで、顔は無表情のまま、じっと正面を向いて座ったままだった。 「うまくいったようだね」  後ろから男の声がした。 「ええ」  龍勝は振り向きもせず、そっけなく返事をした。 「コイツの心は完全に『心の迷宮』に堕ちていきました」 「どの生物にも必ずある統一された無意識の世界か。そこがどんな世界か知っているかい?」 「いいえ。ただそこに堕ちればよほどの強い意志じゃない限り、こっちには帰ってこないってことは知っています。あと、抜け殻のようになってしまうことも」 「二千年生きていても知らないことがあるんだね」 「オレの知っていることはほんの一部です。長い時間生きていても全てを知ることはできませんし、知っても全て理解することはできません」 「じゃあ、不老不死になって何を知って理解したんだい?」 「・・・大切なものすら救えない無力感と、失っていく孤独、言葉にできないものばかりですよ。だからオレには何故人間が不老不死を求めるのかが理解できない」 「なるほど。経験者は語る、か。生物は寿命があるから頑張れるものだからね。君のように不老不死は拷問と同じかもしれないね」  男は哀れむように龍勝を見た。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加