思い

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 龍勝は瞬間移動をして部屋から出たが、無意識のうちに何もない暗い部屋の中にいて、しゃがみこんでいた。 「本当は守ってやりたかった。愛していたのに・・・なんでオレは巻き込みたくないからと言って、殺してしまったんだ。天主、オマエが生きているだけでも、よかったんだ。 龍を憑かせたのはオマエのためだったのに・・・オレは、これから先、どうしたらいいんだ・・・愛すべき人のいない世界で、どんな気持ちで生きていけばいいんだ・・・」  龍勝は暗闇に自分の気持ちをぶつけていた。3ヶ月前に天主を殺してから、気持ちが不安定だった。  そのせいなのか、今までだと紅い月の満月の夜にしか流せなかった血の涙が、ここのところ、しょっちゅう流れてくる。 「二千年前のあの日から、カイラを殺そうと思って生きてきたんだ。なのに、自分から死んでしまった。オレはなぜ、あの時カイラを殺さなかったんだ」 あの時カイラに謝罪され、思考がおかしくなっていたのか。今頃になって、二千年間抱いてきた想いが溢れてくる。  この二千年間、狂わずに生きてこられたのは、天主が生きていたからだ。そんな簡単な答えを自分の手で捨ててしまってから気付くなんて。 『愛すべきものを失った悲しみは、決して忘れられない。それはオレも同じだ。龍勝』  突然聞こえた声に龍勝は驚かなかった。この声は龍勝に憑いている龍、破邪無王の声だ。 「破邪か・・・一度オマエに訊きたいことがあった」 『何だ?』 「なぜ、オレに憑こうと決めたんだ?龍は憑く人間を決められるだろ?」  龍は憑く人間を決めることができる―それは天主から聞いたことがあった。しかし、破邪には二千年も共に在りながら一度も訊いたとこがなかった。
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