嘆きの讃美歌

8/18
前へ
/83ページ
次へ
「シスター。オレはあまりあなたを傷つけたくない。おとなしく、渡してくれませんか?」  いつもの話し方とは違っていた。いつもなら、龍勝はこんな話し方をしない。もっと友達感覚に言葉を交わしていたのに、今日は話し方が違っていた。それだけ本気なのだろう。 「使われる目的が何か、龍勝、あなたは知っているのですか?」 「ええ。知っています。だからこそ、渡してくれませんか。もし、渡さないのなら、あなたを殺さなければならない。天上界の女王『マリア』であるあなたを」 『マリア』と呼ばれてシスターが笑った。 「私の正体を知っていたのですね?」 「オレもこの間まで知りませんでした。光華を持ち出したのが誰なのか。もし、あなたが聖なる存在、『マリア』ではなく、ただの人間だったら・・・真実を知らずにすんだなら・・・」  龍勝は下を向いた。 「真実を知らなくても、あなたは同じことをしたと思いますよ。光華は、渡しません」  シスターが目を閉じると、白いドレスを着て、月桂樹の冠をかぶった容姿になった。  龍勝は顔をあげ、シスターを見た。  「本当に、マリアじゃなければよかったのに・・・」  白いドレス姿のシスターを見て、龍勝は切なくなった。 ―自分もシスターも普通の人間だったら、もっと違う未来を生きていただろうに。どうしてオレたちは、こういうふうにしか生きられないんだろう。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加