本編

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1.プロローグ とある男子生徒の懺悔  人生の終わりを覚悟した、そんな一瞬。  廊下の死角に小さくなって座り込んだ僕の身体は、オンボロの機械のように激しく震えていた。  立ち上がれない、腰が抜けたようだ。  向こうから迫ってくる、あの化け物の姿が今でも目蓋の裏に焼きついて離れない。瞬きするたびにその白い髪が、赤い眼をした般若の仮面のような顔面が浮かんでくる。全身の水分を気持ち悪く揺さぶる、悲鳴にも似た奇声が鼓膜を振るわせた。  幻聴ではない。すぐそこまで、迫っている。  恐ろしい、鬼が。  どうして、こんなことになってしまったのだろう。こんなはずじゃなかったんだ。ただの好奇心だったのに。  とんでもないことをしてしまった。  巻き込んでしまった多くの人たち。そして、大きな傷を作ってしまった彼女に、古傷を抉ってしまった、彼女に。  ごめんなさい。  その過ちを犯してしまったからには、僕はもう逃げることはできない。  目を、逸らすことはできない。  助けることは無理だけれど、これ以上、誰も泣かずに済むように。笑顔でいられるように。  できる限りの努力をしよう。  震える足を酷使して立ち上がり、おぼつかない足取りで死角から飛び出す。  耳元で、鬼気迫る制止の声が響く。しかし、立ち止まるわけにはいかない。  僕は勢いよく廊下を駆け抜け、一直線に鬼めがけて突っ込んだ。
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