5人が本棚に入れています
本棚に追加
本編
1.プロローグ とある男子生徒の懺悔
人生の終わりを覚悟した、そんな一瞬。
廊下の死角に小さくなって座り込んだ僕の身体は、オンボロの機械のように激しく震えていた。
立ち上がれない、腰が抜けたようだ。
向こうから迫ってくる、あの化け物の姿が今でも目蓋の裏に焼きついて離れない。瞬きするたびにその白い髪が、赤い眼をした般若の仮面のような顔面が浮かんでくる。全身の水分を気持ち悪く揺さぶる、悲鳴にも似た奇声が鼓膜を振るわせた。
幻聴ではない。すぐそこまで、迫っている。
恐ろしい、鬼が。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。こんなはずじゃなかったんだ。ただの好奇心だったのに。
とんでもないことをしてしまった。
巻き込んでしまった多くの人たち。そして、大きな傷を作ってしまった彼女に、古傷を抉ってしまった、彼女に。
ごめんなさい。
その過ちを犯してしまったからには、僕はもう逃げることはできない。
目を、逸らすことはできない。
助けることは無理だけれど、これ以上、誰も泣かずに済むように。笑顔でいられるように。
できる限りの努力をしよう。
震える足を酷使して立ち上がり、おぼつかない足取りで死角から飛び出す。
耳元で、鬼気迫る制止の声が響く。しかし、立ち止まるわけにはいかない。
僕は勢いよく廊下を駆け抜け、一直線に鬼めがけて突っ込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!