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それをよく分かっているから、それ以上何も言ってこない。
「私的には、その鬼とやらに食われた小さな女の子の幽霊が出るって噂のほうが信憑性があるけどねぇ」
鬼の噂に引き続いて有名なのが、その噂。
かなり昔の話で、かつてこの地にあったとされる神社の一人娘が鬼に食われ、未練を残した魂が辺りを漂って出てくる、というものだ。
どちらにしても信じる要素はないが、テレビでよくやる心霊写真特集などが好きな由喜は、そっちのほうが話題にするには楽しそうだと感じているらしい。
談子はというと、お化けや妖怪は好きだが幽霊は嫌い、という妙な偏りを持っているので、そういう話は進んでしようとしない。たいして変わらんだろうと、由喜に何度突っ込まれたか知れないが。
「はっ、鬼なんているわけないだろうが。馬鹿馬鹿しい」
突然、右隣の席から、野次が飛んできた。一気に現実の世界へ引っ張り戻された談子は、怒りを煮え滾らせて、声の主を睨み付ける。
気だるそうに椅子に浅く腰掛けて背中を反らせている男子生徒。名前を、春眠暁という。
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