本編

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 奇声を発しながら威嚇しあう。  そのコブラVSマングースのごとき熱い戦いに終止符を打つかの如くチャイムが鳴り、五限目の担当教師が教室に入ってきた。 「皆さん、席について。授業を始めますよ」  科目は古典。担当はこのクラスの担任の新任教師、瀬見(せみ)時雨(しぐれ)だ。  長い髪にふわふわウェーブのパーマをかけた、小柄な女性だ。この学校の卒業生だというから、生徒たちから見れば先輩にもあたる。  歳は二十五歳。若い年齢のわりに落ち着いた空気がとても大人っぽく、鋭いイメージを持たせるシャープな赤縁メガネをかけこなしているわりに、やさしくとろんとした瞳が厳しそうな雰囲気を緩和していた。  チッと舌を打ち、談子は不機嫌そうに席に座り直し、教壇に目を向けた。暁も普段から座っている目を更に鎮座させて肘を突き、前方を睨み付ける。  その眼先にいた時雨は、とばっちりで怒りの視線を受ける羽目になったが、特に気にする素振りもなく授業の準備を始めた。  四限の世界史の担当教師なんて、暁と目が合っただけで腰を抜かしていたのに。なかなかタフな先生だ。それくらいでないと、現代の高校教師なんて勤まらないのかもしれないが。     
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