さくらくも

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さくらくも

 ふり積もった雪が陽によってすこしずつ融けだして、春の芽吹きを待つ土を濡らすころ、ふと夢で見た桜雲のことを思い出した。桜雲なる言葉があるのかは不確かだが、夢に出た山の案内人の爺さんが「桜雲、桜雲」と言うものだから、此方でもあの光景を「桜雲」としか名状できないのである。切り立った山の中腹あたりから、頂の見当にかけて一面に桜の花が咲き、その風に遊ぶさまは確かに雲のようだと形容できる。いつか見てみたいが、果たしてそんな風景は実際にあるのだろうか。梅の花はつぼみをふくらませている。これが咲いたら、咲き終えたら、なか十日ののちに今度は桜の番である。桜雲は、どこかの山に浮かぶのかしらん。そんなことを考えていた。     
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