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翌日、拓也に呼び出されたのは大学の奥にある理学部の研究所の前だった。時間に遅れて現れた拓也は白衣姿のまま、俺に駆け寄ってくる。
「お前……やっぱり理学部なんだな。絶対、拓也は文系の方の人種だと思ってたよ。『チッス』とか言うチャラい奴等」
「ふっふっふー、見た目で判断するのは良くないぞ? 親が放任主義過ぎて危ない薬品とか混ぜまくっていたからなぁ、趣味が興じて理系男子」
死ななかったのが奇跡と言うくらいに自由な奴だ。拓也の言う薬品とは、家に普通にある洗剤やらのことを言うが、家にあるやつでも混ぜたら危険なものもある。
小学校の時に『混ぜるな。危険』の表示を習わなかったのか。
「お前、混ぜた薬品を間違えたら今頃この世にいないぞ」
俺はいつもそう忠告する。
「大丈夫、大丈夫。だいたい換気をすれば自分の毒にはならない」
いや、親指突き出されても困る。
というのもその方法。自分は良くても他人には毒だろうが!
「面白いだろー? 身近に結構薬品って使われているし、人体に有害なやつも多々あるし」
どうでもいいが、実験台にされることだけは勘弁だ。
「シックハウス症候群のホルムアルデヒドは少量でも有害だから、利用制限あるけど、あれ煙草に含まれてるんだぜ。発ガン性あるから喫煙してる人、毒吸ってるようなもんだよ、アレ」
今後一切、煙草は吸わないと誓う。
「絶対吸いたくない……」
「好きな人は吸ってもいいと思うけど、俺はお勧めしないね」
そういいながら、拓也は白衣のポケットからなにかを出して俺に手渡す。
硬貨。しめて百円。いやいやいや。呼び出しておいてそれはないだろ。
「コーラ買ってきて。今実験で手が離せない! お願い、お釣りはあげる!」
「百円って! お釣り出ねえよ! むしろ三十円出せと! 百円のジュースでもお釣り出ねえよ!」
手を頭の前で合わせる拓也。だが、微かに漏れる声が荒い。
「お願い! この通り!」
どの通りだよ。笑いを噛み殺している声が聞こえているし、お前今ちょっと足震えているぞ。呆れ顔をする俺に拓也は小声でお願いする。こっそりと誰にも聞こえないような小さい声で。
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