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アスファルトは雨に濡れて反響する。
午後は雨が降るとニュースキャスターの言葉を思い出す。後の祭り、雨音にかき消される呟き。ため息虚しく。
拓也との会議をお開きになったのは、何を隠そうこの雨のせいだった。
「傘は……入れてないよな。俺だし」
拓也は足早に帰っていった。今日は最寄りの駅まで自転車で来ているらしく、雨にどうせ雨に濡れるなら弱いうちに降られると言って。俺も最寄りの駅に自転車を置いているのだが、俺がその駅に着くころにはずぶ濡れになるほど強くなるだろう。
諦め。ため息が無意識に出る。
それと俺をこんな気分にさせる原因がもう一つ。それは吐くだけ吐いて逃げていった拓也の一言だった。
「お前はさ、楓ちゃんとどうなりたいの?」
「どうって………」
拓也はそう聞いて俺を黙らせた。どうなりたいか、そんなこと分からなかった。
恋人になれたら? 手を繋げたら? 既にそんなの幼いときに似たようなことをした。そう、俺にはどうなりたいかの答えが見つからなかった。俺が口籠っていると拓也はペットボトルのコーラを流し込んだ。
「質問を変えよう。お前は楓ちゃんと恋人になれた場合。なにがしたい、どこに行きたい」
なにがしたいか……そう聞かれると一つ思いつくものがあった。
「夏祭り行きたいな、最近二人で行けてないし。最近は拓也と三人だろ」
それを聞いた拓也はにやりと笑った。俺はまんまとあいつの罠に嵌ってしまったのだ。
「はぁ……」
ペットボトルのお茶を一口含む。渋みが口の中に広がっていく。こんなことならお茶を選ばなきゃよかった。今更後悔しても遅い。
拓也が提示した指示はこうだった。
「夏祭りに誘って二人で行き告白をしろ……か。あいつらしい、単純かつ、確実な、鉄板ネタかよ」
初めは三人で行くからと言い、一人が仮病で休む。告白の王道といえば必ず考えられる技。
だが、これって。
「俺は何回も行ってるし……あぁ、もうなんでこんなにもどかしいんだ!」
自分のことながら、どうにもならないこの状況にイラつく。そもそもこのもやもやした気持ちがなんなのかも分かっていないのに。それを拓也に話せば……どうなるのかは明白だ。それは目に見えている。さっきの食堂での演説の再来だ。
それもこれも三ヶ月前のある事件によってもたらされたことなのだ。
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