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「あれ、拓也君もいたの? 待ってくれてありがとう聡兄!」
聡の幼馴染、片桐楓がそこにいた。
「遅いぞ、何分かかっているんだよ」
「アパートから手間かかってさ!」
もういい、俺はため息を吐く。いつもの遅刻グセか。そういえば試験の時も遅れていなかったか。それで大学には入れたのだからたいしたものだ。
「言っとくけど俺は『先輩』なんだからな? 校舎内では敬語にしとけ」
はーい。と渋々了承する楓。分かったような顔だが多分それを実行する気はさらさらないだろう。俺は楓に見せるように大袈裟にあきれ顔をする。
聡たちは二つ違いの幼馴染である。家が近所で親同士の付き合い。俺は大学三年、楓は一年。今日初登校の新一年生だ。大学のためにこの駅から二つ離れた場所にアパートを借り、一人暮らし。俺とはまた違うところに住んでいる。
「聡兄も借りられたの?」
「あぁ、見つけられた。いきなり拓也が『彼女と住むから出て行け』と言われた時には若干殺意が湧いたが……大丈夫だ」
元々拓也と住んでいた家を追い出されたのはつい先月のこと。転々と友人の家に寝泊まりしてようやく見つけたアパートに住みだしたのは先週の話だ。
これじゃ殺意が湧いても仕方ないだろう、拓也?
「今頃身震いしてるだろな……」
楓がきた時に『俺はここで! あとはお二人さんごゆっくりどうぞ!』と先に走ってしまった拓也を想う。楓は「なに?」と首を傾げている。
「いや、なんでもない。行こう」
聡たちは並んで大学の道のりを歩き出す。
桜吹雪舞う、綺麗な青空だった。
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