幼馴染

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 近代最大の発明は、やっぱりこのクーラーだ。クーラーに勝るものはない。 「はぁー……」  クラブハウスから歩いて数分。いや、目の前。もしくは隣。  人工の風で冷えたここは食堂。お昼を過ぎたここは学生が憩う場となっていた。 「だ、か、ら! 初めからここに来ればよかっただろ! 近いんだし」  聡の忠告も虚しく、拓也は「俺、ここー!」と走りこみ、職員に怒られている。  お前は廊下を走る小学生か。 「両親の顔を見てみたいよ………」 「えぇー、普通だよ。普通。少し放任主義なだけで。普通」  放任主義にも程があるだろ、と口には出さずつっこむ。そうしている間に拓也は持っていたカバンをまさぐりながら言った。 「聡、せっかく食堂来たんだし、何か飲まないか。俺はレポート書いているから、お前が買って来いよ」  そして、強引に小銭を捻じ込まれる。全く酷いやつだ。 「はい! コーラね!」  手のひらには百円がしっかり握らされていて、拓也は既に一枚のレポート用紙を机に置いていた。  どうやら拓也に俺が断ることなど想像すらされていない。  聡はわざとらしく大袈裟に立ち上がった。 「お! 悪いねぇ」 「その顔で言うか」  聡はケタケタと笑う拓也を睨んだ。拓也は一切怯むことなくシャーペンを指で回している。拓也が書き出したレポートには難しそうな数字と記号とアルファベットの羅列。おおよそ、完全文系の自分には理解も出来ないような内容だ。 「お前、研究室はいいのか? この前言ってなかったか」 「いいの、いいんだよ。部室には入ってこない、と思って部屋借りたのに、無理やり鍵借りて探してくるんだもん。部室にもいれないよ」  拓也は指で器用にシャープペンシルを回しながら愚痴っている。  さっきいた俺たちの部室は名前が決まっていない。たまに拓也が集めた友達で集まったりするためだけの部屋。おおよそ何故作ったのかは察しがついていて、拓也が自分の為だけに作った隠れ家だ。自分が所属している研究室――、理学部の先輩から逃げるためだけの。
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