幼馴染

7/9
前へ
/28ページ
次へ
 拓也は楓に相槌を打ち、顔をくしゃりと笑わせた。何か面白い話でもしていたのだろう。  考え事をしていたせいでなにも聞いていなかった。 「聡はどう思うよ」  そう拓也に聞かれ、俺はお茶を濁した。聞いていなかったのだから仕方ない。 「楓、授業終わったから帰り寄って行こ」  一時間半の授業が終わり、楓の友人が再び食堂に来た。彼女は楓と一緒にいた俺達を見て当然のことながら驚いた顔をする。年頃の女の子なら誰でも思う台詞を。 「嘘! 楓、彼氏居たの!」  と、その友達は叫んだが、楓はすぐ訂正する。 「ううん、幼馴染の聡兄と、友達の拓也君だよ。暇だったからお話ししてたんだー」  自然な訂正の仕方に、俺としてはなんというかはっきりとした現実を突きつけられている気がする。拓也は横で微笑する。 「あ、俺達もそろそろ帰るから。じゃあな楓。風邪引くんじゃねぇぞ」 「うん、聡兄も拓也君もじゃあね!」  楓は手を振りながら走って行った。どんどん出口に歩いていく二人を見送り、ついには見えなくなった。  俺達はしばらく無言。  聡は苦々しそうにペットボトルのお茶を流し込み、拓也は泡が溢れたコーラを流し込んだ。そして拓也が一言。 「脈うっすぅい……」 「――……俺はどうすればいいんだ」  拓也は少しの間、コーラを口の中で転がしていたが、 「なんで、アレで気付かないの、楓ちゃん。鈍すぎにも程があるだろ」 「俺にも分からん……もしかして俺が悪い? コレ」  聡は自分を指差して微笑する。苦笑いしか出て来なかったからだ。  拓也は聡の顔を見て俯く。 「いや、聡は悪くない。悪くないんだよ……。声をかける。オーケー。さりげない気遣い。オーケー。緊張しているところに入り込みさりげなくかばう。オーケー。強いていうならお前、一回話を聞いていなかっただろ?」  聡は怪訝な顔をする。 「それだけだろ? しかもそれ直接関係ないだろ」  いや、そうとも言えないぜ。拓也はそう呟いた。 「現になんて最後に言った? 彼氏と聞いた友達に動揺も無しに『幼馴染』発言が出るか? 本当にお前、ただの幼馴染としか見られてないんだな……」  拓也は哀れむ目で聡を見た。聡はただ頭を抱えるばかりである。 「俺にどうしろと」  聡は拓也に懇願する。拓也は頭で考える時間も無く言った。きっとそれが正論だと言わんばかりに堂々と。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加