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幼馴染
――遅れるかも。待ってて。
軽快なメロディと共に真っ黒なディスプレイに浮かぶメッセージ。
じっくりと見て五十嵐聡はため息をつく。ポケットに携帯を押し込み、周りを見渡す。この駅の改札はいつも混んでいて、電車が来た時間でなくても人が行き来する。出る人も入る人も途切れずに通って行き、それぞれ乗る電車のホームに吸い込まれて行く。
足早に淡々としたいつもの風景だ。
都会と言うには郊外で、田舎と言うには栄えすぎているこの街。何年か前に有名な雑誌で取り上げられたことにより一気に人が増えた。元々都心まで電車で一本、一時間もかからないのが理由だろう。都市開発が進み、駅前はビルが立ち並ぶ。駅まで出てくれば何でもそろい退屈な時間など無い。電車の本数も多く利用しやすい。
俺はよくこの駅を使う。
ズボンのポケットに手を突っ込み、携帯を取り出す。
待ち合わせに遅れるなと言ったのはあいつなのに。まだメッセージは来ていない。この分ではあともう少し待たされるのがオチだろう。聡はまた深いため息をついた。
「かーのーじょ! 待ちですかぁー?」
ちなみにこの駅は聡の通う大学の最寄りでもある。
だからこうして――。
「違う。違うって言っているだろ! 拓也。俺の肩に馴れ馴れしく手を置くな」
同じ大学の同じサークルに属する岩波拓也。
高校からの腐れ縁だ。
俺の肩に手を乗せ、にやにやと笑う彼。いつものことだが、もし間違えたらどうするのだろう。それが女性だったら通報ものだ。
いっそのことなら逮捕されてしまえばいい。
「なんだよぉ……つれねぇなぁ。ちょっとくらい紹介してくれてもいいじゃん」
よく言うよ、高校の時から知っているし、拓也には彼女がいるくせに……。
拓也はブーブー口をとんがらせながら俺に重心をかけていく。重い。重いしうざったい。
「お前も早く行けよ」
しっしっと手で追い払う。拓也は渋々立ち去ろうとする。ホッと息をつく間に来てしまった。彼女が。
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