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 丸岡先生が理香を見た。この件は唯一のスタッフである理香の仕事だ。理香は、先生の台詞のあとを引き取った。 「十二月十七日に、この会で初めてフォーラムを主催することになりまして。会場は、このセンターの小ホールなんですが、せっかくの機会なので、AFFの活動をPRして協賛を募りたいと思っています。お手元に──」  スミレ先生が長谷さんの前に手を伸ばし、さっき渡した写真の下から、あらかじめ全員の机の上に配付していた資料を抜き取って、一番上に置き直した。長谷さんが、左手で資料をめくる。 「最初は、ワープロでチラシをつくって配るつもりだったんですが、研さんから『ちゃんとした印刷物にした方がいい』と助言をいただいて、パンフレットの版下の作成をお願いすることになっていました」 ──こういうのはね、ハッタリでもいいから、ちゃんと作らないとダメだよ。協賛を募りたいなら、なおさらね。オレがやってやるよ。  そう言ってくれた研さんは、ここにはいない。もう病院には着いているだろうが、大丈夫だろうか。  長谷さんが資料から目を上げた。物腰は柔らかいのに、思いのほか強い眼差しで、どきりとする。 「A3の二つ折り、フルカラー。文字はほぼ固まっているんですね」 「はい」  一通り資料を眺めて、長谷さんは「大体分かりました」とうなずいた。茶色い革製の手帳を取り出して開く。 「フォーラムは十七日──。ああ、日曜日なんですね」手帳を見ながら、間に合うかなあ、とつぶやく。「印刷物の納期は何日?」
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