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「十六日の午前中にいただけたら」 「印刷会社は決まっているんですか?」  顔を上げた長谷さんと目が合った。切れ長のきれいな目だ。 「はい。いつも協力してくださっている会社があって」  会社名を聞かれて「川辺印刷」と答えると、長谷さんは「知らないな」と小さくつぶやいた。ジャケットの内ポケットから、スマホを取り出す。 「番号を教えていただけますか? 工程を確認したいんですが」  川辺印刷は、町の印刷所といった風情の会社だ。長谷さんに電話番号を伝え、いつも社長さんと直接やり取りしていることを話すと、長谷さんは「携帯の番号ですね。今、かけても大丈夫でしょうか」と確認し、その場で相手に電話を入れた。 「突然、申し訳ありません。初めてお電話を差し上げております。長谷デザインの長谷と申します」  受話器の向こうから、川辺社長の大きな声が聞こえた。言葉までは聞き取れない。 「はい、長谷デザインです」  川辺社長が、また何か言う。 「ええ、その長谷です。本人です。長谷貴文と申します」  長谷さんは、なぜか何度も繰り返し、それからおもむろに本題に入った。 「実は、AFFさんのパンフレットの件でご連絡させていただいておりまして。急な話なんですが、デザイナーの研和臣さんの代理をさせていただくことになりそうなもので、遅い時間に恐縮なんですが、お電話させていただきました」
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