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 開いたドアの向こうから、隣の大会議室で行われている学習会のざわめきが聞こえてくる。  時々交じる笑い声と椅子の音。その音を背景に、理香は小会議室の隅に一人で座り、いつものように事務局専用の携帯電話を手に取った。  壁の時計を見ると七時を回っている。遊びに行ってしまっていたら、つかまえるのは難しいかもしれない。そう思いながら電話したのに、相手は意外なほどあっさり電話に出た。 ──やっぱり、かかってきたかあ。  電話の向こうで、沙彩(さあや)ちゃんが、ふう、とわざとらしくため息をついた。面倒くさそうな口調なのに、どこか嬉しそうにも聞こえる。 「沙彩ちゃん、今日、来てないんだもん。びっくりしたよ」  細心の注意を払いつつ、でも、できるだけ何気なく聞こえるように気をつけながら話を切り出した。うっとうしいと思われて、つながりが切れてしまったら元も子もない。 「期末、月曜日からじゃなかった? 英語、初日でしょ?」  理香の言葉に、電話の向こうで沙彩ちゃんが「苦手だもん、捨てる」とあっさり宣言した。 「ダメだよ、留年かかってるじゃない」 ──何しても、どうせ赤点だし。やるだけムダ。  もしかしたらそうかもしれない、とは思う。でも、もしかしたら、そうじゃないかもしれない。  確かなのは、今日頑張らなければ、沙彩ちゃんは、たぶん高校三年生になれないし、「退学」の二文字が急速に現実味を帯びてしまうということだ。
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