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「何言ってんの、やってみなきゃ分かんないよ」  理香は、慎重に言葉を選びながら言った。重たく聞こえないように、あえて「タメ口」を使う。 「それに、赤点だったとしてもさ、『頑張ったな』って先生に思わせれば、印象が違うって」 ──そうかなあ。 「そうだよ」 ──じゃあ、土日に友達とベンキョウする。 「えー? 友達と? そんなの、しゃべって終わりになっちゃうじゃない。ぶつくさ言わないで、とにかくおいでよ。元プロのわたしが見てあげるから」  わざと恩着せがましく言うと、沙彩ちゃんは「ぷっ」とふき出した。 ──ぶつくさなんて言ってないし。仕方ないなあ、リカちゃん先生がそこまで言うなら、行くよ。 「え? 来る? やったー」心からほっとしながらも軽く言う。「すぐおいで。スミレ先生から、マフィンの差し入れも来てるし。すぐだよ、待ってるから」 「餌付けか!」と笑う沙彩ちゃんに向かって、「あとでね」ともう一度声をかけ、向こうから通話が切れるのを待って、携帯電話を置いた。「AFF事務局」のラベルを眺めながら肩をゆっくり回す。 「──『確実に卒業できるようにケアする』っていうのは、こういうことなんですね」  突然声をかけられて、理香は、ぱっと振り返った。  開けたままにしていたドアのすぐ近くに、長谷さんが立っていた。黒いコートを腕にかけ、反対の手に大きめのバッグを提げている。黒っぽいジャケットとグレーのパンツが、会社員より幾分ラフだけれど趣味がよくて、彼の職業を思い起こさせる。
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