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 長谷さんは、変わらない姿勢でファッションビルの壁にもたれている。 ──すれ違っちゃったのかな?  うす暗い街の一角で、長谷さんがコートのポケットからスマホを取り出した。画面の上に指を滑らせる。  メールを打っているように見えた。奥さんに娘さんの帰宅を確認しているのかもしれない。でも、それにしては──長い。  理香は、長谷さんの姿を見つめ続けた。時間が過ぎていく。外は、冷えているだろう。 ──寒くないかな。手、冷たくないかな。  温めてあげたいと思うけれど、それは理香の役目じゃない。  十分以上も経ったころ、長谷さんはようやく画面から目を上げた。  突然、理香のスマホがテーブルの上でふるえた。理香は、びっくりして小さく点滅するランプを見つめた。 ──どうして──?  あわててガラスの外に目を戻すと、長谷さんが身体を起こし、コートのポケットにスマホをしまうのが見えた。  ゆっくりとした歩調で、自宅へと続く道を歩いて行く。遠ざかっていく背中が、やがて、暗い夜道に溶けて見えなくなった。
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