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「まさか、あんたが本当に国立に受かるとは思わなかったよ。いや、マジで」  和希ちゃんの遠慮のない感想に、周囲が爆笑した。  駅前の通り沿いにあるイタリアン。フォーラムの打ち上げを行ったのと同じ店に、今日は、高校を卒業して学習会を巣立っていく生徒たちと、ボランティアの面々が集まっている。ささやかな歓送会だ。  お店のオーナーの厚意で、格安で使わせてもらっている。未成年が主役なので、もちろんアルコールはなしだ。 「ひどいなあ」  和希ちゃんの言葉に男の子が苦笑している。でも、心から嬉しそうだ。  国立大一本の受験だった。学費は全額アルバイトと奨学金で賄わなければならないから、私立という選択は難しかった。これで「先生になりたい」というこの子の夢が、単なる夢ではなく、ちゃんと現実のものとして見えてくる。 「まあ、よかったじゃん。おめでと」  和希ちゃんは、いつの間にか、笑いながら泣いていた。丸岡先生が、その肩を軽くたたいた。この一年間、和希ちゃんがどれだけ一生懸命にかかわってきたか、みんなが知っている。 「僕、四月から、教える側で参加する」  生徒が言う。和希ちゃんが「いい心がけじゃん」とふざけた口調に感情を隠して言った。ぶっきらぼうなようでいて、実は和希ちゃんは結構繊細だ。  目の前で交わされている会話を聞いていたら、後ろから「理香ちゃん」と声をかけられた。振り向くと、研さんが、いつになく真面目な顔で立っていた。
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